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市川房枝政治参画フォーラム2023「子どもを権利の主体とする『子ども政策』の推進を!」

23年度第1回の政治参画フォーラムが5月27日に行われた。

1.基調講演「子ども・若者の声を聴いて…」~地域に拡がる子ども若者支援

(一社)栃木県若者支援機構代表理事 中野謙作氏

 平成7年に栃木県高根沢町で学習塾を始めたが、平成8年、高校を中退して非行に走ったA子、少年院出のB男との出会いがきっかけで約28年間、子ども・若者の支援を続けている。

子ども・若者支援の活動で分かったことは不登校、ひきこもり、子どもの貧困、いじめ等すべてに共通しているのは「社会的孤立」である。「社会的自立」を促進するためにはまず、社会的孤立を防ぐことこそ最大の課題である。そのためのキーワードは、安心と安全である。彼らの成長と共に、支援はさまざまな形を取ることになった。

 

  • 相談支援  A子やB男たちへの関わりから不登校、ひきこもり、非行、いじめに対応する県内の民間40団体の連携から「栃木教育ネットワーク」を構築。
  • 学習支援 「学習支援のフリースクール学び舎コア」は、不登校の子どもたちの学びの場、高認(旧大検)取得の拠点である。
  • 居場所支援 子どもたちと接するうちに、学校以外の場=家庭以外の場=居場所の必要性を強く認識することになった。そうした若者たちの居場所は県内10カ所に至る。

 

高根沢町の教育長に任命され、2003年に開設した「高根沢町フリースペースひよこの家」は、適応指導教室である。子どもたち(ひよこ)が安心して、羽を休められる居場所でありたいとの願いから、スタッフと通級生が一緒になって考えたもの。子どもたちが安心して心を休ませ、自分らしい自分を発見し、自立していくための居場所と位置付けられている。表面的な学校復帰を前提としない。まさに『教育機会確保法』の理念そのものである。わずか3万の町の不登校の取組みは、その16年後に国の仕組みとなったのである。

当時の高橋克法町長は「どこで学ぶかが大切なのではない。何を学ぶかが大切なのだ」と説き、学校教育課係長に「学校や役所から2㎞以上離れた空き家」を探すよう指示した。そもそも、学校に行けなくなった子どもたちを教育委員会の施設に来させるのはおかしくないか?!という疑義である。当然といえば、当然の流れであり、町長と教育長の二人三脚はひよこの家となった。高橋氏は、現在、参議院議員、文教科学委員会委員長である。

 ひよこの家は、子どもたちにも変化を生じさせることになった。「おれ、学校に行ってもいいかな?」。あれだけ「学校復帰を前提とすることで学校を拒絶していた」子どもが、「学校復帰を前提としないことで、学校復帰という選択肢」を子ども自身の心に芽生えさせたのである。これを高校まで拡げれば、誰もが学校復帰!となるのではないか。

  ※教育機会確保法:休んでもよい。学校以外の場所の重要性が明確にされた。

 

現在、栃木県若年者支援機構では、子どもと若者の「居場所」をいろいろな形で設置している。学習支援(入口)から就労支援(出口)までが必要なのである。

  •  昭和子ども食堂
  •  キッズハウスいろどり・はなび
  •  就労施設「てしごとや」
  •     訪問型生活支援「えんがお」
  •  ひきこもり支援総合センター「ポラリス」他

2. 講演「スマホ世代の子どもとどう向き合うか~SNS、ゲーム、ネットいじめの問題を考える」

ジャーナリスト 石川結貴氏

 「ネットは危険」、「ゲームなんかやってはダメ!」、大人はつい一方的に子どものネット利用を批判してしまう。しかし、なぜ危険なのか、どうしてダメなのか、その理由を子どもたちは理解しているだろうか。大切なのは「具体的な情報」を与え、子ども自身に考えさせることである。「無料の仕組み」や「ゲームの中にある仕掛け」、こんな裏側を知ることで子どもは自分のネット利用を客観的に考えることができる。

 ネットの世界は変化が激しく、次々と新しい現象が生じる。大人の側も勉強し、わからないことは、子どもと一緒に調べてみよう。利用者本人が「当事者意識」を持ってスマホやネットを使えるように「見える化」に取り組もう。

  • 毎月いくら使っているのか、請求書や通信料の明細を子どもに見えるようにする。
  • スマホは「タダではない」と自覚させる。親が得られた収入の中からどれほど子どものために支払っているのか具体的に話す。
  • 子どもが自分自身の利用状況をカレンダーなどを利用して、ネットの利用時間や内容を記入させる。1か月の合計時間で出来た別のことを子ども自身に考えさせる。
  • スマホやネットは使い方次第。どんな機能をどのように使うとメリットになるのか、親子で話し合う。
  • スマホやゲームに夢中になっている子どもを見ると、つい心配は先に立つが、スマホを見るのではなく、子どもの心を見る。併せて、親の気持ちを見せることである。

 

 まとめとして、子どものネット教育やネットトラブルに役立つ窓口~「警察庁ホームページ」、「法務局・インターネット人権相談窓口/子どもの人権110番」、「インターネット違法・有害情報センター」なども示された。まさに、さまざまな情報はネット検索ができる。賢く使うことを考えよう。


 3. 講演「保育の質を考える~保育の環境・保育士の労働条件・保護者支援」

川村学園女子大学准教授 手塚崇子氏

2018年、保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型認定子ども園・保育要領の3つが同時改訂された。幼稚園や子ども園と保育園とが共通のイメージをもって教育を行うための整合性を確保するために、「育ってほしい10の姿」を意識したものである。

 

① 健康な心と体  ②自律心  ③協同性  ④道徳性・規範意識の芽生え⑤社会生活との関わり  ⑥思考力の芽生え  ⑦生命の尊重  ⑧数量や図形、文字などへの関心・感覚  ⑨言葉による伝え合い  ⑩豊かな感性と表現

 

保育所の課題は多岐に渡っている。保育所は、子どもや保護者のようすや変化に気づくことが出来る重要な場所であるが、昨今は、特に次の点が課題とされる。

 

〇グレーの子どもに対する支援

加配の保育士はなかなか付けることが出来ない。

 

➡子どもの状況について保護者に伝えても、聞き入れてもらえない

➡保護者に3歳児健診で見てもらうように伝えたが、健診では「3歳で、まだ分からない」と言われ、そのままになり、就学前健診で問題が出る。

➡保育所訪問指導はあるが、専門家が巡回してくれるのは年2回程度である。

子どもは日々成長しているため、頻度の高い専門家からのアドバイスが必要である。

  • 今の保育士養成機関では、障がい者ケアを学ぶ機会はなかなか「ない」。
  • 保育士のチーム保育の低下~方向性を統一する必要がある。
  • 対人援助の職種として保護者支援の大変さがある。
  • 他問題家族の支援

 

〇不適切保育

しばしば、不適切保育が報道されているが、そのようにならないためには、

➡クラス毎に日々の保育を振り返る

➡保育所全体で園内での振り返りを行う

➡事例を作成する~実際の保育で起こりそうな場面を想定する。

  • どのように対応したら不適切にならないかを具体的に言葉かけやしぐさ等も確認しながら対応することが望まれる。

 

保育士の労働環境を考えた場合、その働きやすさとは、

➡チーム保育による話し合いの時間の確保

➡保育士同士の連携及び関係する専門職や専門機関との連携

➡園長や主任の管理能力の育成

  • 保育士の不足~第三者の相談窓口の設置によって退職が減少した事例がある。

 

 保育関係機関の実施主体として、市町村の役割は極めて重い。児童福祉法第24条では「市町村は、この法律および子ども・子育て支援法の定めるところにより…乳児その他の児童について保育を必要とする場合において・・・当該児童を保育所において保育しなければならない」とその責務を規定している。

 

市町村(担当課)と保育所の連携の重要性は次のチェックに表れる。

➡担当課は、保育現場に足を運んでいるか。現場での課題は何か。

➡不適切保育の事例を共有し、適切な対応に変える具体的な方法の確認

➡担当課に専門職は配置されているか。

➡保護者トラブルに対応できているか。保護者が本当に伝えたいこと、その背景や環境を考える必要性。

 ➡保育士の働きやすさは給与だけではない。本当の働きやすさとは何かを確認することが重要である。

 

子どもの権利を守り、社会を担う子どもたちの保育の質を向上させるには、保育現場の声を聴き、役所担当課と連携して市町村全体で底上げすることが重要であることを指摘してまとめとする。(規)



市川房枝政治参画フォーラム2023「子どもを権利の主体とする『子ども政策』の推進を!」

【主催者メッセージ】

2023年4月から「こども基本法」が施行され、同時に「こども家庭庁」が動き出します。教育現場では「子どもの権利」である子ども達の意見が尊重され、子どもに寄り添った学校運営が根づいて行くのでしょうか。子ども・若者が希望を持てる未来をつくる実践活動を学び、保育の量の議論から今問われている質への転換とは何か、そしてコロナ禍、ネットやSNSをどう利用したら良いのか、さまざまな角度から今後の教育について考えます。

日時 2023年5月27日(土)10:00~16:15
会場

婦選会館<対面式>

(東京都渋谷区代々木2-21-11)

講師

▽基調講演

子ども・若者の声を聴いて…~地域(栃木)に広がる子ども若者支援
中野謙作さん((一社)栃木県若年者支援機構代表理事)

▽講演

スマホ世代の子どもとどう向き合うか~SNS 、ゲーム、ネットいじめの問題を考える
石川結貴さん(ジャーナリスト)

▽ 講演

保育の質を考える~保育の環境・保育士の労働条件・保護者支援

手塚 崇子さん(川村学園女子大学教授)

参加費

現職議員12,000円・現職議員以外5,000円

(音声(CD)受講有り:1コマ3,000円+送料)

定員 約30名(要予約、受付先着順)
申し込み方法 フォーム、メール、FAX、電話でお申し込みください。