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シンポジウム「女性と明治150年―政治参加、家族の視点で考える」

 2018年は明治維新から150周年となり、明治民法親族篇・相続篇の発布から120周年に当たる。政府のホームページは明治以降の日本の歩みを「礼賛」し、産業の発展や教育の充実を謳う。だが、女性たちにとって明治150年とは何を意味しているのだろうか。このシンポジウムは、日本の近代の「暗」の部分、「明」の部分とは何か、女性たちの政治参加と家族という二つの切り口から迫ったものである。二人の女性史研究者による報告を通して、明治維新150年後のいま何を問うべきなのかを参加者の皆さんと一緒に考えてみた。(コーディネーター・金子幸子)

 

 最初の報告は、江刺昭子さん(ノンフィクションライター)による「政治参加を求め続けて150年」である。江刺さんは単著『樺美智子——聖少女伝説』(2010年)などの他に、東京都町田市自由民権資料館で『武相自由民権史料集』全6巻(2007年)の編集に携わり、共著『武相の女性、民権とキリスト教』(2016年)も出している。

 まず、導入として「写真で見る明治の女性たち」が示された。パワーポ イントを用いて、明治期の自由民権運動に関わった女性たちの姿から、大正期の新婦人協会、昭和初期の婦選運動、戦後の参政権獲得に至るまで、興味深い画像を次々と紹介した。

 報告では、明治時代の自由民権運動を中心にして、この運動の最盛期に女性たちが積極的に政治の場に参加したことが指摘された。次いで女性の政治参加への阻止とそれに対する運動、戦後の参政権獲得、さらに女性の政治参画への現在までを追った。概略は次のとおりである。

  1. 演説、議会や演説会の傍聴、地方参政権実現——①西巻開耶の女権演説、②岸田俊子の演説行脚、③影山英の実力行動、④女性の民権結社、⑤二つの憲法草案
  2. 政治からの排除と抵抗——①1890年集会及び政社法、②1900年治安警察法
  3. 政治参加を要求する運動
  4. 参政権を得て

 戦後、米軍施政権下に沖縄では本土より7ヶ月早く女性参政権が行使されたとの言及もあった。


  次が、「明治民法120年と家族の変化」と題した石崎昇子さん(専修大学非常勤講師)の報告である。石崎さんには単著『近現代日本の家族形成と出生児数』(2015年)、共著『歴史の中の家族と結婚』(2011年)がある。

 報告では、第1に明治民法とその改正過程、第2に家族の実態の変化を明らかにした。第1に、明治民法の作成にあたっては、男性優位の近代西欧法が導入されて権利義務関係を規定しつつ、戸主権・長男子家督相続制も採用、家制度が成立した。これは人口の8割を占めた農山村漁村家族(家業や家産に基づく家族)という当時の現実を反映したものであった。1927年には、家族の実態の変化(後述)もあり、民法改正要綱(戸主権の制限、女子家督相続)の動きもあった。だが、政府の反対で実現しなかった。

 第2に、明治以降、資本主義経済の発達により、都市部に賃金によって生活し、夫婦と未婚の子どもから成る近代家族が登場する。サラリーマン・労働者・自由業の近代家族である。この家族は以後、増加の一途を辿る。

 戦後の民法改正にあたっては、審議会委員に女性議員も加わり、ついに家制度が廃止された。この背景には現実の家族の変化もあった。だが、近代家族は性別役割分担に基づいくもので、その後、女性たちからはこれに対して異議申し立ても起こってくる。最後に、「民法も変わる、家族も変わる」ということが強調された。

 報告後の質疑応答では、海外の女性参政権の歴史、明治民法の解釈、夫婦別姓、憲法と民法、戸籍制度など、重要な問いが寄せられた。会場からもご意見を伺うことができ、少子化の問題や女性議員の役割も含めて今日の諸問題が惹起された。討論を通して、個人的なこと(家族)は公的なこと(政治)であり、両者は深く関わることが改めて示唆されることになった。

(両報告要旨は、『女性展望』695号、2018年11-12月に掲載予定)