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市川房枝政治参画フォーラム2022「2023 年度予算、国・自治体はどう動く」

22年度最終の政治参画フォーラムが1月28日に行われた。

1.「国の新年度予算編成から自治体財政の見通しを読み解く」
  前(公財)地方自治総合研究所委託研究員 菅原敏夫氏

 23年度の国の税収は、法人税の大幅な伸びによって増収が見込まれるなか、1月半ば総務省による「地方財政の見通しと予算編成の留意事項63」が全国の自治体と議会に示された。これによって、私たちが抱える政策課題がどのように動くのか、税の再分配と財政の役割、特に「人への投資」についてはどうだろうか。

 留意事項 No.10は、「地域の人への投資」である。重要なのだが、中身は新流行語の「リスキリング」だけである。一昨年から保健師の増員が決まっており、23年度は児童福祉士、児童心理士の増員も始まる。しかし、自治体全体の給与関係費は大幅な引き下げだ。総務省はいろいろ言い訳しているが、説得力はない。自治体・公共部門への「人への投資」は行われないということだろう。

 No.34では、「令和5年度に平年度化する保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する介護職員を対象とした診療報酬、介護報酬等における収入を3%程度引き上げるための措置の地方負担について、引き続き地方交付税措置を講ずることとしている」とある。これは要注意で、公立保育所、幼稚園は含まれない。今は、こうした措置改善を自治体の予算で行っているものだが、新年度も「地方交付税措置」に留まる。

 総務省の理由付けから離れて、私たちの23年度の自治体予算、自治体財政の論点はなんだろう。

 挙げられるのは、やはり人への政策である。自治体直接でいえば、公共サービスの担い手を増やすこと、処遇を改善することになろう。子ども家庭庁の設置もあって、子ども施策は脚光を浴びている。しかし、子ども手当は増額できてもサービスは簡単には増やせない。実効性は綿密な工夫を要する。

 保育士では70年変わらない配置基準が問題視され、増員が求められているが、国としては民間保育所への補助金にとどまりそうだ。また、この3年間で保健師、児童福祉士や心理士の増員は行われるが、具体的なサービスの増加に結びつくのかどうか実効性はなかなか見えない。少しずつ条例が増えてきた「ケアラー・ヤングケアラー」に対する人へのサービス提供、投資については、条例も必ずしも新しいサービスを構想できていない。ヤングケアラーにスポットがあたった分、ケアラー全体の政策はむしろ足踏みしているくらいだ。サービスの拡充のためには、処遇の改善、「なぜ賃金は上がらないのか」を解明できなければならない。この混迷は、賃金の理論と分析を担ってきた現代経済学の新たな危機の象徴かもしれない。

 

 受講した自治体議員として何ができるのか非常に悩ましいが、過去最高額となる地方交付税をどう活かしていくのかを必死に考え、議会での提言に換えていかなければならないとの思いを新たにした。(規)


2-①「2024年の介護保険」
   市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰 小竹雅子氏

 午後の講演は、①第9次計画を前に「介護保険計画」策定のベースとなる「介護保険制度の見直しに関する意見」(社会保障審議会介護保険部会)の状況と②サービス提供事業者から現場の実態を聞いた。

 小竹氏は介護保険制度の創設以前から、国会審議、関係する審議会を傍聴し続け、問題が生じる度に論評し、市民意見として発信してこられた。

 小島氏は、1990年の全身性障がい者介助ボランティアを皮切りに、訪問介護・居宅介護支援・グループホーム・デイホーム、だれでも食堂等、多彩な介護サービスを提供し続けている。「いかに介護保険改悪を防ぐ」かを聞いた。

 

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 介護保険制度は、2000年の開始から23年目となる。それまでの自治体による措置制度から一転、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして始まった。基本理念は次の3点である。

 

① 自立支援~単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする。

② 利用者本位~利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる制度。

③ 社会保険方式~給付と負担の関係が明白な社会保険方式を採用。

 

 現在、加入者は40歳以上の人たち約7,640万人である。介護保険制度は3年毎に、「法律・介護報酬・基準」について見直しが行われ、その原案は社会保障審議会で作られている。わが国は、言わずと知れた「超高齢社会」であり、世界一の高齢化率であるが、介護保険の2019年の認定者は、被保険者の約9%、高齢者の18%となっている。2014年以降、認定を受けても利用していない「未利用者」は100万人(2割)を超えた。この時点で、当初の理念の③は危ういものとなったと言えよう。

 さらに、サービス料は年々、利用者は1割負担といえども高額になった。施設サービスは、要介護の認定がなければ受ける術もない。施設入居に至っては、要介護3以上でなければ望んでも許されないのが現状だ。特別養護老人ホームの定員は常に一杯で、入居できるのは、お亡くなりになっての欠員を待つしかなく、もはや、当初の理念は①も②も消失したと言うしかない。

 

 さて、ことほど左様に「制度の維持」が困難になったなか、2024年度から始まる第9次介護保険計画を形成する「見直し」は、どのように審議されているのかを注視しているが、今まで以上に利用者と家族にとって厳しいことが予想されている。

 2022年12月時点の「介護保険制度の見直し」のうち、「給付と負担」は以下の通り。

 

ア.高所得者の1号保険料の負担(負担段階の見直し)

イ.一定以上所得(2割負担)の判断基準

ウ.多床室(老健・介護医療院)の室料負担

 

 いずれも、2023年夏まで審議されることになっているが、前提は負担増である。

 ケアマネジメントの有料化、軽度者(要介護1・2)への生活支援サービスにホームヘルプとデイサービスを含むのかどうかについては、2026年末までに審議が続けられる。被保険者の範囲と受給権者の範囲は、期限を設けずに検討が行われることとなった。

 2023年度予算案における介護保険関係費は、3兆6,959億円である。それでも、どんどんサービスが削減されており、保険料も利用料も増大することは間違いない。自分としては、これまで市民運動家として、利用者目線での声を挙げてきたが、放置される高齢者と家族を前にして、どこまで声を挙げ続けられるのか判らなくなっている。(規)


2-②「保険あってサービスなし!介護保険の近未来~介護保険改悪を防ぐために」
   特定非営利活動法人 暮らしネット・えん代表 小島美里氏

 介護保険は「老いの命綱」のはずだったが、23年後の現実を具体的に紹介しよう。

 

・介護保険は「家族同居、身体介護モデル」のまま

・「認知症モデル」が造れずに過ぎた23年

・「介護予防」に走った日々

・負担増えて介護サービスなし

・介護人材不足に無策(外国人頼みも限界…)

・介護保険は持続可能、高齢者の生活は持続不可能

 

 介護関係者の賃金の低さは周知の通りである。そして、認知症に適した在宅サービスは「ない」。

 こうした現実を受けて、自治体議員にチェックしてほしいことを述べる。

 

1)第8期の達成状況と第9期の骨子

2)介護サービスの充足状況

3)サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームでの在宅サービス提供状況

4)介護予防事業「地域の支え合い」、「多様な主体による多様なサービス」の現状

5)コロナ禍:介護現場での感染状況
~介護施設・デイ・訪問介護等サービス別

6)コロナ禍:自治体の支援策~職員に対する抗体・高原検査の実施状況、在宅介護職員をワクチン接種の優先枠に入れたかどうか、ケアマネ等のワクチン接種同行に対する助成の有無

7)コロナ禍:感染者対応を行った介護事業所への支援
~応援職員の緊急派遣、医療機関との連携支援、減収補填

 

 介護サービスは充足しているかを問えば、不足は加速している。申し込んでは断られる、プランに入れてもサービスなし。実態把握がなされていないのが現実であり課題であることを理解していただきたい。

 これらを踏まえたうえで改悪への対抗策として、自治体から国に意見書を提出しようと提案したい。「これでいいのか、日本社会」と問いかけよう。安心して暮らせる社会、安心して死ねる社会を求めて「政治を諦めない!」ために。

 

 介護保険が救世主であったはずの「超高齢社会」。しかし、サービスが使えればラッキーというのが現実だ。路頭に迷う高齢者と家族はどこに行けばよいのだろうか。特養も老健も、そして、認知症の高齢者の受入先といわれてきたグループホームも定員で一杯だ。在宅を支える訪問型サービスは低報酬まま、ホームヘルパーの高齢化と減少は進む。政府は、弱き者たちを「ただアンラッキー」として片づけるのかを問わねばならない。

 小竹氏の問題提起を受けて、小島氏からは具体的な処方箋が示された。自治体議員として出来ることにしっかり取り組みたい。(規)



市川房枝政治参画フォーラム2022「2023 年度予算、国・自治体はどう動く」

【主催者メッセージ】

コロナ禍、困難を抱える市民が更に増え、社会格差が広がっています。ところが国税収入は過去最大規模、2023年度も増収が見込まれています。自治体予算にはさらなる関心が高まり、歪みを正す予算が求められています。来年度国・自治体予算と介護保険法改正について利用者の負担増となる改悪が予想される中、自治体議員として取り組むべきことを学びます。

日時 2023年1月28日(土)10:00~16:20
講師

▽基調講演「2023年度予算、国・自治体はどう動く

 菅原敏夫氏(前 公益財団法人地方自治総合研究所委嘱研究員)

▽講演2024年の介護保険   

 小竹雅子氏(市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰)

▽講演保険あってサービスなし!介護保険の近未来~介護保険改悪を防ぐために~小島美里氏(NPO法人暮らしネット・えん代表理事)

参加費

現職議員12,000円・現職議員以外5,000円

(音声(CD)受講有り:1コマ3,000円+送料)

定員 約25名(要予約、受付先着順)
申し込み方法 フォーム、メール、FAX、電話でお申し込みください。