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連続講座④「難民問題の現実と理想主義の世界」講師:墓田桂さん(成蹊大学教授)

講師の墓田桂さんは国際公法専攻で成蹊大学教授。「国内避難民の国際的保護」で博士号をとった。2013~15年は法務省難民審査参与員を務めた。


これまで難民問題は人道問題として議論されてきたが、今や政治・外交問題になっている。2015年末現在、世界の難民の数は1548万人、パレスチナ難民500万人を合わせると2000万人を数え、これに国内避難民4080万人(推定)を加えるとイタリアの人口に匹敵する6000万人にのぼる。


これはイスラム圏の混乱により発生したもので、難民の多くが先進工業国で、地理的・歴史的な繋がりのあるヨーロッパを目指した。密航船で移動中に地中海で溺死するなどの惨劇は人道的なEU内で共感をよび、各国が難民受入れを進めた。しかし難民を装って入国後に起こしたテロ事件などによりEU統合の将来を占うような動きにまで発展し、米国でもトランプ政権のイスラム圏からの入国停止など、欧米が直面する難民問題の現状を解説した。
難民の認定は「難民条約」(1951年。日本は81年加盟)に則って行われるが、2016年の日本での難民申請者は10,901人、このうち難民と認定されたのはわずか28人(0.26%)、「人道配慮」での対処97人(0.89%)である。日本が「閉鎖的」と批判される所以だが、認定率が低い背景には難民性の低い申請者が多い現状がある、と法務省の参与員の経験から指摘した。


難民を受け入れるという美しい側面とは逆の醜い側面には、社会・国家の安全保障がある。難民がもたらす負の影響には戦争犯罪者の混入、テロの危険の増大などの治安の悪化、政治の複雑化、財政や行政への負担等々が考えられる。人道主義と現実主義の間のジレンマ、「国家が難民をいかに保護するか」から「難民から国家をいかに保護するか」へと多面的に見ることが必要であり、理想だけでは語れないのが難民問題だと語った