連続講座⑧「相模原事件を問う~ナチスの障害者虐殺の取材から」講師:熊田佳代子さん(NHKプロデューサー)

講師の熊田佳代子さんはNHK文化・福祉番組部チーフ・プロデューサー。

はじめに、熊田さんが担当したNHK・ETV特集「それはホロコーストのリハーサルだった~障害者虐殺70年目の真実」(2015.11.7放送)が上映された。2010年11月、ドイツ精神医学精神療法学会の謝罪によって明らかになったのは、1939~41年に行われた、精神障害者や知的障害者、回復の見込みがないとされた病人たちの殺害だった。その数20万人。ナチス政権下には「T4作戦」と呼ばれる優生学思想に基づいて行われた安楽死政策が存在したが、この病人たちの殺害は政権からの強制ではなく、優生学の立場からの医者や研究者たちの要請であったことも、その後の調査で判明した。ガス室での大量殺害はまさにホロコーストの「リハーサル」になったと、ドイツのハダマー記念所の女性は語る。

 

番組の中でハダマーの精神科病院を訪れたのは、日本障害者協議会代表の藤井克徳さん、自身も視覚障害者で長年障害者の人権問題に取り組んできた。「住民の良心としてそれを止めようという住民の動きは難しかったか?」という藤井さんの問いに、当時を知る病院近くの住民は「遅すぎた」と苦渋の表情を浮かべる。何かおかしいと気づいた時にはナチスの監視システムが出来上がっていて、どうすることもできなかったと。「どんな問題にもどんな戦争にもどんな悪行にも最初がある、前触れがある。その段階で気づく力が問われてくる。また社会的に弱い立場、障害者に問題が現れやすい。これが前触れの警鐘であると捉えることが大事ではないか」と藤井さんは訴えかける。

 

番組放送の翌年、相模原市「津久井やまゆり園」の事件が起こった。容疑者の「障害者はいなくなればいい」という言葉に同調する声も飛び交う中、事件が番組の構図や発想に似通っていることに胸騒ぎがしたと熊田さん。事件直後に番組の再放送をとの声には、被害者家族の動揺などを考え、秋まで延ばした。事件後の1年間にETV特集、ハートネットTVなどで事件関連の番組を17本制作。事件から1年後に生放送した「障害者は“不幸”か」では、綺麗ごとなしで障害者否定の意見を紹介し向き合った。放送前後のツイートは1000を超え、終了後もツイッター議論は続いたという。

 

また障害者自身の番組作り「パンジーメディアの挑戦」を紹介。自分たちは発信できないと思われているんじゃないか、自分たちで自分たちを知ってもらおうという活動を、プロが少し手伝い、時間をかければ番組は出来る。こういう応援していくことも私たちにやれることかもしれない。しかし障害者に対する偏見、効率化を求める社会のありよう、障害者を隔離する日本の歴史は根っこにずっと続いており、問題点を1つずつ洗い出していくしかないのかと思うと語った。