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連続講座①「『無戸籍問題』とは何か」講師:井戸 まさえさん(ジャーナリスト・元衆議院議員)

 講師の井戸まさえさんは東洋経済新報社を経て、兵庫県議会議員、衆議院議員を務めた。自身の経験を踏まえて無戸籍問題他、法の狭間で苦しむ人々の支援を行う。

 

 初めに会場に向かって問いかけた。「あなたのお父さんは誰ですか?」。お母さんの夫がお父さんとされるのだという。続いて民法772条(嫡出推定)によって我が子が無戸籍に陥った井戸さん自身の経験を詳細に語った。前夫を巻き込まずに子の戸籍を得るにはどうしたらいいか。奔送の結果、今まで起こされたことがなかった現夫を相手の認知訴訟・裁判以外に方法がないことがわかり、裁判を起こして勝訴する。即ち子は現在の夫の子と認められ、この種の裁判の初の判例となった。しかし裁判で当事者間の合意があっても、決めるのは「国」。「子どもの父親は国が決めます」という裁判長の言葉を忘れないと井戸さんは叫んだ。この経験をインターネットに載せると多くの反響があり、自分ひとりだけの問題ではない、無戸籍の人たちがいなくなるまで頑張ろうと思ったと力強く述べた。

 

 戦争や災害による無戸籍では、太平洋戦争によって旧樺太や沖縄に本籍を持っていた人全てが戸籍を失った。2011年3月には東日本大震災の津波で戸籍原本が流出したことで、死亡届の記載など多くの実務に支障を来たしたという実態を報告。ある日誰でも突然無戸籍になることがあるのだということを、覚えておいてほしいと言う。

 

 毎日新聞の報道やNHKの番組で取り上げられたことによって無戸籍問題に目が向けられるようになり、法務省での無戸籍者の調査が始まった。2018年4月現在無戸籍者は713人(うち成人149人)とされているが、0~1歳は含まれず、自治体からの回答が2割に過ぎないなど統計の取り方に問題があり、司法統計からの推定数は1万人に及ぶとする。無戸籍者を生む最大の理由である民法772条(嫡出推定。1898年施行)は、女性への行動規制にほかならず、733条(再婚禁止期間6カ月、2016年100日に改正)は女性差別そのものだったと無戸籍問題におけるジェンダー差別に触れ、家制度の下でできた戸籍制度は複雑に構成されており、様々な複合差別をもたらしていると述べた。選択的夫婦別氏制度改正の現状やマイナンバー制度との関連等多くの課題について論じ、この機会に戸籍問題について一緒に考えてほしいと呼びかけた。