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連続講座②「安倍改憲と国民投票」講師:渡辺治さん(一橋大学名誉教授)

 講師の渡辺治さんは東京大学社会科学研究所助教授を経て2010年まで一橋大学教授を務めた。2004年「九条の会」発足時から事務局を担う。専門は政治学、憲法学。

 

 渡辺さん自身は憲法改正反対だと前置きした後、憲法改正の手続きと国民投票及びその問題点について詳細に述べた。

 憲法改正の手続きは憲法第96条で、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」で発議でき、「特別の国民投票」で「過半数の賛成を必要とする」と定めており、普通の法律よりも高いハードルを設けている。戦後どの与党も3分の2を取れず、発議できないため作っても意味がないとして、改憲手続法は2007年までなかったと、戦後の改憲の波を振り返りながら語った。

 改憲手続法は現在メディアでは「国民投票法」と言い慣わしているが、発議の手続きと国民投票による承認手続きを1本化した法律である。発議に関する手続きは以下の通り。

  1. 「憲法原案の発議(提出)」について①衆院100人以上、参院50人以上による発議(メンバーズ提出 国会法68条の2)、②憲法審査会による提出(会長提出 同102条の7)、の2つの場合を想定。
  2. 内容の関連事項毎に区分して行う「個別発議」とする(同68条の3)。これはできるだけ個別事項毎に民意を問うためである。

 国民投票の実施手続きのうち、特に詳細に述べたのは国民投票運動だった。これは「憲法改正に対し賛成または反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為」と定義され、原則として運動は自由であり、公職選挙法で禁止されている戸別訪問も可能。このほか放送については政治的公平性を含む放送法第4条の適用、投票日14日前までのテレビCM自由などがある。

 しかし問題点は多いと渡辺さんは語気を強めた。市民運動にとって良い点は普通の法律案と異なり、参議院の60日ルールや衆議院の再議決はないため、与党有利なルールにはなっていないことだ。とはいえ、戸別訪問が迷惑防止条例など他の法律で取り締まられることで国民投票運動に与える委縮・威嚇効果の恐れもある。大企業が改憲賛成のキャンペーンに加担したらそのCMが大々的に流れるのではないか等々。したがって私たちは発議の段階で声を挙げ阻止しなければならない。市民が取組んでいる「3000万署名」は必ず世論に影響を与えることが出来る。

 最後に、若い世代にどう伝えていくか――会場からの問いに応えた。世論調査で若い世代に改憲賛成が多いのは、生まれた時から戦争も徴兵制もなく、9条もあることが当たり前のなかで育ってきたからだ。しかしそれは当たり前の空気ではない。いつ取られてもおかしくないということを彼らに話していくことが我々世代の責任だ。そうすれば、いまはわからなくても、いずれ問題に直面した時に気づくだろうから。若い人たちを信頼したい、と結んだ。