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連続講座④「裁量労働データ歪曲と『働き方改革』」講師:竹信三恵子さん(和光大学教授・ジャーナリスト)

 竹信三恵子さんは朝日新聞社の編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て、2011年から和光大学教授を務める。貧困や雇用劣化、非正規労働者問題についての先駆的な報道活動に対し、2009年貧困ジャーナリズム大賞を受賞した。

 

 竹信さんは安倍政権の「働き方改革」と「女性活躍」を否定的に捉えていると前置きし、裁量労働データねつ造という切り口から、「同一労働同一賃金」「残業時間の上限規制」「高度プロフェッショナル制度」を中心に問題点を洗い出した。

「日本型同一労働同一賃金」は非正規に不利な仕組みであるという。正社員の評価の対象の1つである年功給は、短期雇用の非正規に適用されないことは自明のことであり、職務をスキル・責任・負担度などで点数化して同じなら同じ賃金にするというILO型職務評価にするべきだと述べた。

 「残業時間の上限規制」は裁量労働制の改定の中で問題化してきたもので、「裁量労働制はなぜ怖いのか」のテーマで論じた。裁量労働制は1987年に創設された専門業務型の働き方で、当初、労働時間を働き手の裁量で決められることは「いいこと」と思われた。しかし、業務量は会社の裁量次第であり、業務量を増やされれば「自己裁量」で労働時間を増やすことになる。これは強制的自発性を引き出すことになり、91年には過労自死に繋がった例も現れた。その後の何回かの労基法の改訂を経て、2017年働き方改革実行計画で、繁忙期に1カ月で100時間未満、2~6カ月平均で80時間以内などの残業上限設定に至る。この審議中に発覚したのが裁量労働データ改ざんである。上限100時間は過労死水準であり、上限を決めたことは100時間までは残業していいということになるのだと、竹信さんは語気を強めた。

 次に「高度プロフェッショナルはなぜ怖いか」。高度の専門的知識を持ち、高水準の年収を持つ働き手を「高プロ」とするが、労基法の対象から外れるため、労働時間で判断されない、休憩を与える義務の免除など、1日24時間、無休で働かせることも理論的には可能になる制度であり、スーパー裁量労働と呼ばれる所以である。これを異次元の労働規制緩和だと断言した。

 また、「女性活躍は女性の人権から」として、女性が安心して声を上げられる仕組みや女性活躍政策以外に、両立できる働き方への転換こそが必要だとする。今年5-6月開催のILO総会で「仕事の世界での暴力とハラスメント防止条約」づくりが始まったが、日本は政府も経済界も後ろ向きである。

 アベノミクスの労働政策の狙いは、グローバル企業の「活躍」を目指した労働者の利用の効率化作戦であり、改憲のための多数派集めである。政権はこの5年間で何をやってきたかを私たちは評価しなければならないと結んだ。