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2019連続講座⑥ 種子法廃止・種苗法運用とこれからの日本の農業 講師:山田正彦さん(弁護士・元農林水産大臣)

 講師の山田正彦さんは長崎県五島で牧場経営や肉屋の経営などを経て弁護士を開業。1993年衆院選初当選、5期。菅内閣で農水大臣を務めた。2015年「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」設立、弁護団共同代表。17年「日本の種子(たね)を守る会」設立、顧問。『農政大転換』『TPP秘密交渉の正体』『タネはどうなる』等の著書がある。

 2017年日本では種子法が廃止され、農業競争力強化支援法(支援法)が成立した。これらによって日本の農業や食はどのように変わっていくのか。食の安全を守るために私たちはどうすればいいのかを熱く語った。

 

 2018年12月30日、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定が発効し、16年協定に署名した日本でも、国内法の整備が進められている。まず主要農産物の種子法が廃止された。「種子法」があることで私たちはどのような恩恵を受けてきたか。

 種子法は「コメ、麦、大豆の伝統的な日本の在来種を国が管理し、各都道府県に原種、原原種の維持、優良品種の選定、奨励、審査を制度として義務付けてきたもの」である。農業試験場で雑種の混入、不良なタネを取り除いて苗場農家を選抜して増殖させ、優良な品種を公共品種として安く安定して提供できた。地域にあった伝統的な多様な品種は、コメだけでも300品種ある。そうした手を経て私たちは美味しいコメを当たり前のように食べてきたのだという。

 国は種子法の存在が民間企業の参入を阻害しているとして、種子法を廃止。支援法によって銘柄が多すぎるので集約すること、日本が蓄積してきたコメ等の原種、原原種、優良品種の知見を民間に提供することとした。主要穀物の種子が全て民間会社に任されると、どうなるか。①種子の価格が公共品種の4~8倍になる。②民間の品種はF1品種(交配種)なので自家採種が出来ず、毎年新たに種子を購入しなければならない。③農家は民間会社と契約して肥料・農薬などの購入を義務づけられ、収穫したコメも他に出荷することは出来ない。

 

 このような状況に対して、「タネ」を守ろうと、種子法に代わる「種子条例」を作る動きが地方自治体で高まっている。「種子の品質の確保に努め、安定的な供給を行う」ために、最初は新潟県が「主要農産物種子条例」を制定、2018年4月1日に施行された。19年12月現在では13道県で制定され、22都道府県で策定中である。市民が立ち上がり、地方自治法による請願権を使って戦って勝った結果だと山田さんは述べた。

 自家採種は農民の権利であり、米国、カナダも自家採種が主流。来年の通常国会で出される種苗法改正案は優良品種の海外への流出を防ぐためとして「自家増殖や転売は一律禁止」としており、自家採種ができなくなる恐れがあるので、改正案を止めなければならないと語気を強めた。

 

 また、遺伝子組み換え種子について、米国企業や日本の農研機構が遺伝子組み換え種子の試験栽培を日本で始めており、日本も遺伝子組み換えのコメ・麦・大豆を作付けするようになるのではないかとの懸念を示した。世界の流れは有機・自然栽培・非遺伝子組み換え農産物に変わって来ているが、日本は遺伝子組み換え農産物の承認大国になっていると資料によって説明。

 さらに大きな問題になっていることとして、非遺伝子組み換え農産物への残留農薬にがん発症リスクがあり、米国で末期がんを発症した男性が賠償を求めた裁判で巨額の賠償金の支払いを裁判所が命じたことを紹介した。この裁判の弁護士がロバート・ケネディ・ジュニアである。今、種子法廃止違憲と残留農薬も違憲として裁判を始めたところであるが、ケネディ弁護士に米国での残留農薬裁判の資料の提供を依頼したところ、裁判所の許す限り提供する、日米共同して闘おうとの返答を得たという。

 

 愛媛県今治市では、市の許可なくして遺伝子組み換え農産物を作ると半年以下の懲役か50万円以下の罰金という「食と農の条例」を作った。あなたたちが住んでいる市町村でこのような条例を作ったらどうか。国会議員だけが法律を作れるのではない。地方自治法上、住民提案の住民投票による法律を作ることができる。私たち1人ひとりが法律を作る権利を持っている。安倍の批判をしているだけでなく、孫やひ孫を守るために私たちが動かなくてはならない。国会議員に代わって私たちが法律を作るときが来た、頑張りましょうと力強く述べた。(や)