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女性展望カフェ「どうする?首都直下地震と南海トラフ地震」青木正美さん(青木クリニック院長)

 青木正美さんは東京築地に生まれ育ち、現在も銀座でペインクリニックを開業。日本女医会理事。阪神淡路大震災で医療ボランティアに従事し、2006年より関西学院大学災害復興制度研究所客員研究員。16年より3.11甲状腺がん子ども基金顧問を務める。地震が起こるメカニズムを解説し、首都直下地震や南海トラフ地震が起こったとき、どう対処すれば生き抜くことができるのかを、明快にしかし厳しく述べた。

 

 地震にはプレート境界型地震、活断層地震、火山地震の3種類ある。世界中にプレートは20数枚あり、日本はそのうちの4枚(北米プレート・ユーラシアプレート=陸のプレート、フィリピン海プレート・太平洋プレート=海のプレート)が周囲にあるという特殊な立地である。海のプレートと陸のプレートが出会うと、重い海のプレートが陸のプレートに潜り込み、陸のプレートが跳ね返ることによって地震や津波が起こる。3.11(東日本大震災)の地震と津波は、太平洋プレート(海)が北米プレート(陸)の下に潜り込み、耐え切れなくなった北米プレートが跳ね返ることによって起こった。

 活断層は40万年くらいの間に同じところで地震が起きて地割れが生じたもので、活断層はあらゆるところにある。首都直下地震は首都に打撃を起こす活断層地震の集合体で、1個の地震ではないので、どこで起こるかわからない。

 

 一方、南海トラフは1つの地震なのでどこで起こるかわかっている。ユーラシアプレート(陸)にフィリピン海プレート(海)が潜り込んでいるが、そこが限界に達しそうだという。以前は東海地震、東南海地震、南海地震と言われていたもので、まとめて南海トラフと言うようになったが、ここでは割合規則正しく150年に1回プレートが跳ね上がっている。300年前が富士山の噴火が起こった宝永地震、150年前が安政地震。近年西日本の内陸で起こっている地震は、南海トラフの前奏曲である。敗戦の1945年前後に南海・東南海地震が起こっているので、それから80年経つことが南海トラフが近いと言われる所以である。

 

 80年前には日本になかったものが今ある。原発だ。南海トラフの周囲では静岡県の浜岡原発と愛媛県の伊方原発。3.11の原発事故の中で脆かったのは燃料プールで、浜岡原発は現在停止しているが燃料プールには6,627本の使用済み燃料棒が置いてある。南海トラフが来ると浜岡原発は瞬時に破壊され、死の灰は半日くらいで東京に達する。3.11のときの原発事故は津波による全電源喪失のためという政府の発表は違う。地震直後に原子炉に穴が開いていたことは、後に過渡現象記録装置(車のドライブレコーダーのような装置)を調べて分かっている。地震こそ事故の原因なのだ。

浜岡原発に高い防潮堤を作るという。津波は防げるかもしれないが、浜岡から20㎞の石廊崎には断層があり地震のたびに隆起しているので、南海トラフが来れば浜岡も跳ね上がり原子炉や燃料プールの配管などは吹っ飛んでしまうだろう。使用済み燃料棒を原発敷地内の免震ビルなどに収めてほしい。原発が止まってさえいれば安心、ではない。原発を止めようと言うだけではなく、次の事故を起こしてはいけない運動にしなければならない。次の事故を起こさないようにすることは、今の時代を生きている私たちの責務である。そうでなければ、後の子どもたちが可哀想すぎると思う。

 

 首都直下地震が起こるとどうなるか。政府発表では死者23,000人、経済被害95.3兆円だという。今の国家予算80兆円より少し多いどころか、もっと多くなる。被害者720万人で直後の避難所に290万人という想定はもっと多く、1ケタ違う。建物被害61万棟も過小評価している。

そして私たちの生活では①先ず通信不能になる。スマホも使えなくなる。②水を3日分ではなく3週間分は用意しておくこと。脱水が命を奪う。③山手線と環状7号線の間の地域を木造密集地域(木密 もくみつ)といい、72時間で燃え尽きると言われている。この地域に住む人は火を確認したら風上に逃げること。帰宅は鎮火後に。木密を通らなければ帰宅できない人は、通らずに帰宅できるルートを地図で確認しておくこと。木密地域では避難所ではなく、広くて火の粉が飛んでこないとされている広域避難場所に行く。④ご遺体には触らないこと。細菌の塊だから。⑤東京にこだわらないこと。東京には仮設住宅もみなし仮設住宅もできない。可及的速やかに疎開する。そのために実家のある人、別荘のある人は食糧をそこに送って準備しておくこと。あるいは避難所の代わりをする機能を持つ旅館や民泊を調べてコネをつけておくこと。⑤大手銀行は取引停止になる可能性があり、またすべての地域に支店があるとも限らない。全国にあるゆうちょ銀行に当座の生活資金を入れておくこと。手元に1,000円札で現金の用意も。

東京大空襲よりも関東大震災が怖かったという話が伝えられている。空襲には警戒警報があったが、関東大震災は突然来たからである。人間は突然起こることには弱い。

 

 青木さんは具体的な心構えを説き、声を大にして訴えた。

「心も体もお金も準備してください。公的な援助は何も来ないと思うこと。人を当てにせず、自分の頭で考えること。平常時に実現できていないことは緊急時には絶対できない。」

「生き残る準備をしてください。この国の未来に対して2度目の原発事故を起こさない。そして自分が生き残って、そのことを皆に伝えてください」と。(や)