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2020連続講座「年金制度の現状と課題 」講師:西沢和彦さん((株)日本総合研究所 調査部)【オンライン】

 はじめに、日本の年金制度についてポイントを次のように4つあげる。

  1. 運営方式は理論的に2つに大別される(社会保険方式と税方式)。前者の「社会保険方式」は「働き方」と表裏一体の関係にある 。
  2. 厚生年金(報酬比例部分)、基礎年金も「社会保険方式」とされている。
  3. 2020年に「働き方」の変化に対応するため、法改正が行われた(5月成立) 。
  4. ただし、この改正は現行制度下にあって効果は極めて限界的である。

 年金制度はわかりづらい。理由の一つは、年金制度が実際には2階建にはなっていないのに、厚生省が2階建て-「国民年金(基礎年金)」は1階、「厚生年金(報酬比例部分)」は2階-と説明しているからである。しかも、公費(税金)の投入の仕方が明確ではなく、高所得の人々にも国庫負担が及ぶ。もう一つに、年金給付水準の見方がある。一般に6割といわれているが、これも特殊な所得代替率の定義による試算値に過ぎない。すなわち、分母が「現役男性の平均的な手取り収入」(一人分)であるのに対して、分子は「夫の基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)と妻の基礎年金」(二人分)として計算するばかりでなく、分母は「手取りの金額(可処分所得)」、分子は「名目の金額」である。そのため、単身世帯、国民年金加入者などの給付水準はこれとは異なるからである。実質的な所得代替率は、厚生年金受給者の場合でも、35〜40%に低下してしまう。

 

 高齢化が進むため、2004年に大きな年金改正が行われた。保険料率と国庫負担率を引き上げて歳入を増やす一方、「マクロ経済スライド」の導入によって給付水準を抑えることによって、年金財政を持続可能なものにしようとした。しかし、デフレを背景に、「マクロ経済スライド」は機能せずに、給付水準が上昇してしまい、積立金を取り崩すことになった。この状態を是正するための法改正が、2016年12月に成立したが、不十分な内容にとどまる。

 

 最後に、2020年改正について注意点をいくつかあげる。

 第一に、被用者保険の適用拡大について。現行制度のまま被用者保険適用拡大を進めることは可能だろうか。それは、もはや限界にきている。現行の被保険者資格取得届の提出には事業主の恣意性(事業主側の社会保険料の負担を逃れるために、この届を出したがらない)が入り込む余地がある。被用者保険適用を拡大するには「資格取得届」の廃止、複数事業所勤務者の名寄せなど踏み込んだ対応が必要となってくる。

 第二に、在職中の年金受給のあり方が見直されたが、65歳以上の在職老齢年金については、見直しが見送りにされており、高齢者の保険料負担が就労行動にどのような影響を与えるか、注目していかなければならない。第三に、この改正では繰り下げ受給可能年齢の引き上げが行われてはいるが、政策としての優先順位は低い。さらに、主に主婦の保険料に関して、労働需給を歪める130万円の壁・106万円の壁の問題は依然として手つかずのままで残っている。

 

 西沢氏は豊富な資料をもとに年金の諸問題についてポイントを押さえて話された。講演では、政策は国民一人ひとりが考えるべきもので、官僚や一部の専門家のものではないということを強調し、議論が広がることを期待された。(幸)