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2021連続講座「大災害の時代に私たちはどう備えるべきか?」講師:加藤孝明さん(東京大学 生産技術研究所教授・社会科学研究所特任教授)

 災害が頻発する中で、対策や対応が進んでいる側面もあるとはいえ、避難所の不足や劣悪な環境、行き渡らない救援物資、車避難によるエコノミー症候群など、同じ問題が繰り返されている。経験・教訓が蓄積されないのは、「リアリティ」のある災害状況像を前提としていないからではないか。例えば、「すべての被災者の屋内避難」を防災担当大臣が指示しても、避難所は溢れてしまい、不可能なことは明らかだ。

 また、糸魚川大火(2016年)について、マスコミ報道は「密集地」を強調したが、糸魚川の場合よりも、はるかに広範囲な被害が予測される『延焼運命共同体』は、東京や大阪などの大都市に数十カ所あり、災害が過小評価されている。気候変動による水害も、極端な状態が常態化しており、「今まで大丈夫だった」は通用しない。堤防などのインフラ整備によって、災害による死亡者数は減少してきたが、今や自然の力がインフラ整備を上回る。リスクを忘れがちな安全至上主義から脱却して、いつも一定の災害リスクを意識する「安全、ちょっと不安なまちづくり」こそが必要となった。

 そのためには「自助・共助・公助」のあり方を見直さなければならない。財源がない「公助の言い訳」、限られた人しか参加しない「共助の自己満足」、自分が被災するとは思わない「自助の無策」という現状では、巨大化する災害に対応できない。それぞれが防災について足りない部分の共通認識を持ち、内発性に基づく自律的発展を目指すのが、持続可能な防災の出発点である。

防災問題の基本的な構造は、「膨大な需要」に対して「桁外れに小さな資源」しかないというアンバランスな実態である。したがって、「すべきこと」と「できること」を区別して、「需要」を減らすのと同時に「資源」を増やすしかない。その際、防災だけを切り離して考えるのではなく、防災と地域の課題を組み合わせる「防災"も"まちづくり」という視点が重要だ。ソフトとハードの組み合わせ方、時間軸(短期・中期・長期)、日常と非日常のバランス(例えば、親水と浸水)などの配慮が求められる。また、訓練についても、マニュアル化し過ぎると、各人が考えなくなってしまうという弊害に留意しなければならない。

 地区防災計画の取り組み方を、ものづくりに当てはめてみると、これまでは、材料や機械・道具など全てを揃えて目的を達成しようとする「エンジニアリング」方式だった。しかし、これからは「小さな資源」を活用して、手近にあるものを工夫しながら上手に作る「ブリコラージュ」方式が基本となる。もちろん、「エンジニアリング」方式を参照しながらではあるが。例えれば、レシピ通りに買い揃えて作る料理に対して、冷蔵庫にあるものから作る食事が「ブリコラージュ」方式だが、時にはレシピを見て、新しい方法も取り入れるというやり方を加味する。

 「資源」を増やすには、公助のみならず、災害時には民間の遊休施設を利用したり(例えば、社会的貢献として、パチンコ店の駐車場を車中泊場にするという事前の了解を得る)、災害によって破壊される人工物ではなく、オープン・スペースなど自然環境を活用する。「需要」を減らすには、自分で対応できるだけの余裕がある人々については自助の増強を働きかけ、公助の対象は社会的弱者に限定する。

 昼間人口が膨れ上がる東京駅周辺のビジネス・ビル街や、敷地面積に対して居住者が多いタワーマンションは「自立すべき地区」である。他方で、道路寸断によって孤立する可能性のある地域は「自立せざるをえない地区」となる。周辺に危険な市街地を擁して相対的に安全な住宅地も、援助を期待できないが故に、やはり「自立せざるをえない地区」とする。

 「安全のお裾分け」と「我慢のシェア」は避けられない。単独の地域組織では継続しにくいので、地域の取り組みを公開して、多様な担い手たちによる緩やかな連携の中で、経験・悩み・工夫を共有し、日常の中に防災を織り込んでいくことこそが、持続性と総合性に裏づけられた「防災"も"まちづくり」に繋がる。(眞)



【イベント詳細】2021連続講座「進めたい「いま」、弾力ある社会へ」

講師

2021年7月10日(土)13:30〜15:30

「大災害の時代に私たちはどう備えるべきか?」

加藤孝明さん(東京大学 生産技術研究所教授・社会科学研究所特任教授)

形式

オンライン(zoomウェビナー)

参加費

1,100円(税込)

定員 50名(要予約)

【メッセージ】南海トラフ巨大地震、首都直下地震は切迫し、さらに気候変動に伴い水害は激甚化、頻発化している。大災害の時代に入ったと言ってもよい。同時に、人口減、超高齢化、社会課題も山積し、深刻化している。私たちは、災害にどう備えていくべきなのか。備えていけるのか。この問いに対するマニュアル的解答は存在しない。持続的な災害への備えを社会に定着させることを目指して、地域の特性に応じたそれぞれの答えを探求する必要がある。本講演では、各地で正解を見出すために必要とされる基本スタンスについて話をしたい。いろいろなキーワードがでてきます。

【プロフィール】東京大学工学部都市工学科卒。博士(工学)。専門分野は、都市計画、まちづくり、地域安全システム学。都市災害シミュレーションに関する研究を行う一方で、各地で防災を主軸とする総合的な地域づくりの先駆的なモデルの構築を試みている。