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2021連続講座「“健常者・男性”中心社会を問う障害女性からの視座」講師:瀬山紀子さん

 障害を持つ女性当事者からの発言に重きを置くDPI女性障害者ネットワークのメンバーである瀬山氏は、長年、介助に従事しつつ(障害者自立生活センターの登録介助者)、ジェンダー視点に立つ障害学・介助者学を大学の非常勤講師や客員研究員としても発信している。

 大学生の時の身近な経験から女性親族が介護に囲われていくことに疑問をもち、親族によらない介護のあり方を模索していた実践活動に接した。その中で、介助する側にとどまらず、介助を受ける側からみた家族介護の問題、介助される側の自立の問題にも気づかされる。すなわち、親元や施設からの脱却を図り、トイレや入浴、月経も含めた、介助を必要とする身体を他人にさらしながら、地域で暮らす生き方を実現しようと挑戦する人たちと出会った。

 その出会いから、障害のある人とない人との間を隔てる大きな社会的障壁、いわば“深い溝”が存在することを教えられた。街中で障害者をあまり見かけないのは偶然ではなく、むしろ分離教育や施設化によって、健常者が障害者と出会えなくさせられている。街のつくりも、法律を含めた社会制度も、障害のある人が当たり前に暮らし、働き、生きることを前提にしていない。健常者への配慮は当然視される一方で、障害者への配慮は特別視されてしまう。

 1990年代半ばまで、日本では「不良な子孫の出生を防止」する優生保護法が存在し、強制不妊手術が行われてきた。ようやく国による賠償を求める訴訟に対して一時金支給などの対応策が取られるようにはなった。とはいえ、現実には、出生前診断技術が進んだことによって、障害(をもつ胎児の可能性)を理由とした人工妊娠中絶がかなり行われている。

 私たちの社会は、障害者の生を否定した過去を持つとともに、女性自身の“選択”という形をとりながら、国家による女性の身体管理として、障害者の生を認めようとしてこなかった。子どもを産むよう奨励される女性は、“健全な子ども”を産み育てることを要請されてきた。そのため、女性と障害者は、時として対立させられると同時に、そうした分断の交差点にたつ障害女性たちが存在する。

 障害者運動が実践してきた「自立生活」は、女性運動/フェミニズムにとっても示唆的である。なぜなら、「(健常者の)男性」と同等に働いて、稼いで、経済的に自立しなければならないという呪縛を解く鍵があるからだ。同時に、自立を支えるケアの担い手は誰かという問いも考えていく必要がある。無償介助の母親が低賃金の女性ケアワーカーに代わるのではなく、ケアされる側もケアする側も「自立生活」を保障されなければならない。

 障害者の問題というよりも、健常者・男性中心を暗黙の前提とする社会の側を問う問題提起こそが求められる。

(眞)



【イベント詳細】2021連続講座「進めたい「いま」、弾力ある社会へ」

講師

2021年9月11日(土)13:30〜15:30

「“健常者・男性”中心社会を問う障害女性からの視座」

瀬山紀子さん

形式

オンライン(zoomウェビナー)

参加費

1,100円(税込)

定員 50名(要予約)

【メッセージ】「障害者」問題を考えることは、今の社会がいかに「健常者」中心に作られた社会であるかを考えることにつながる。また、障害女性たちの抱えている課題を考えることは、障害者問題からジェンダーの視点が抜けてきたこと、それはなぜかを考えることにつながる。全国で取り組まれている優生保護法国賠訴訟の提起した課題や、障害のある人たちのリプロダクティブヘルス・ライツの課題も考えながら、「障害女性」の提起する課題を掘り下げる。

【プロフィール】淑徳大学非常勤講師(ジェンダー福祉論)。立命館大学生存学研究所客員研究員。DPI 女性障害者ネットワークメンバー。東京大学経済学研究科「多様性の経済学」プロジェクトサイトにエッセイ「介助・介護の時間」を連載中。