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2021連続講座「子ども・子育て支援の課題 ―海外の動向をふまえて」講師:池本美香さん(日本総合研究所調査部上席主任研究員)

1.日本の子ども・子育ての現状

 2020年の出生数は過去最低の84万人、合計特殊出生率は1.34と少子化の進行は止まらない。共働き等世帯の比率は2000年頃から急上昇し、未就学児の育児をしている女性の都道府県別有業率は、都市部で60%前後だが、地域によっては80%台にまで達する。小中学校における就学援助率の高止まりは、見えにくい子どもの貧困が現れている。児童相談所の児童虐待問題の相談対応件数、小学校における暴力行為の発生件数やいじめ認知件数、小学生の不登校も近年、急増している。子ども数は減少していることから、問題が認識されるようになったからだとばかりは言えない。

 食物アレルギーを持つ子どもの割合は10年間に倍増し、少ないながらショック症状を起こす比率も上がっている。義務教育段階における特別支援学校の生徒数は減少傾向だが、特別支援学級については増加傾向にある。日本語指導が必要な外国人の子どもの増大に自治体が対応しきれずにいる。さらに、いろいろな課題を抱える子どもも増えている。

 コロナ禍の下では乳幼児家庭の不安・孤立が著しく、子どもにも親にも変化が認められる。ICTの普及は否応なく子どもを巻き込む。施設を増やして保育所などの待機児童数は減っても、子ども数の減少のために、施設を維持できない事例も出てきた。放課後児童クラブの登録児童数も伸びた。かつては幼稚園の在園者数が保育所などを上回っていたが、1990年代末に逆転し、認定こども園の在園者数が増加した。これに伴い「預かり保育」を実施する幼稚園が増えた。施設を作っても保育士不足は解消されない。保育士は給与が低く、長く働けない仕事であり、年齢構成が諸外国に比して極めて若い。保育士の質を問えないためか、死亡・重大事故に繋がりやすい。

 複雑な日本の子ども・子育て支援制度において、企業主導型保育事業は指導・監査を受けるが、それ以外では第三者評価の受審率が低い。また、2019年10月実施の幼児教育・保育の無償化は、高所得層にメリットがあり、教育格差を拡大するとともに、保育時間の長時間化を生じさせる。

 

2.海外の保育の動向

 「子どもの権利条約」(1989年国連採択)は、子どもの「生きる権利」「守られる権利」「育つ権利」「参加する権利(子どもの意見の尊重)」を柱とする。諸外国では、この条約をふまえた政策の見直しが進められてきた。例えば、子どもの権利を実現するための独立機関を設置する国が増えて、親の就労にかかわらず子どもにとっての「保育を受ける権利」のための制度改革、保育の質を確保するために、① 評価制度の改善、②保育者に関する制度整備、③親が参加できる工夫、などに努めてきた。

 

3.子ども・子育て支援のこれから

 日本は1994年に条約を批准しながら、そうした動きが見られないが、親の就労等の利用要件を撤廃し、保育の質の確保のための制度設計をするという、「消費者モデル」から「共同生産者モデル」の保育制度へ転換することが課題である。すべての子どもの保育・教育の権利保障に平時から取り組めば、コロナ禍のような緊急事態にも対応できる。親の就労支援にとどまらない子どもの権利実現のための家庭支援こそ必要だ。地域に開かれた保育施設の新たな試みも始まっている。(眞)



【イベント詳細】2021連続講座「進めたい「いま」、弾力ある社会へ」

講師

2021年12月11日(土)13:30〜15:30

「子ども・子育て支援の課題―海外の動向をふまえて」講師:池本美香さん(日本総合研究所調査部上席主任研究員)

形式

オンライン(zoomウェビナー)

参加費

1,100円(税込)

定員 50名(要予約)

【メッセージ】海外では1989年に国連で採択された子どもの権利条約を起点に、この30年あまり、子ども・子育て支援に関する政策が大幅に見直されてきた。他方、日本では1986年の男女雇用機会均等法施行を受け、保育所の待機児童解消や保育時間の延長など、女性の活躍推進に政策の重点が置かれ、子どもの権利の実現に向けた制度改革が遅れている。保育制度改革を中心に、海外の取り組みを紹介し、日本の今後の在り方について考察する。

【プロフィール】専門は子ども・女性に関する政策(保育・教育政策、社会保障など)。主な著書に『失われる子育ての時間』(勁草書房、2003年)、編著書に『子どもの放課後を考える』(勁草書房、2009年)、『親が参画する保育をつくる』(勁草書房、2014年)がある。