家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行なっている18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」と呼ぶ。ケアの対象は、障がいや病気のある親、祖父母、あるいは、きょうだいの場合もみられる。子どもの年齢に不釣り合いなケアの役割や責任を担うことは、心身の発達や学習、人間関係などに影響し、それが進学、就職、結婚などの人生設計にまで及ぶ。「美談」では済まない。
藤沢市における調査(2016年)では、ヤングケアラーが「いる・いた」と回答した教員は49%にも上った。「ヤングケアラー」調査の実施によって、それまで漠然としていた子どもたちの置かれた状況が見えてきた。子どもが担うケアとしては「家事(料理・掃除・洗濯)」と「きょうだいの世話」が圧倒的に多く、その影響としては、「遅刻」「欠席」「学力不振」が目立った。
厚生労働省による初の全国調査(2020年)では、中高生の20人に1人がヤングケアラーだった。これに基づく厚労省・文部科学省のヤングケアラー・プロジェクトチーム報告書(2021年)は、支援策として、①自治体による独自の実態調査の推進、②相談体制の整備、③家事支援サービスの検討、を挙げる。
学校の生徒指導は、ルール厳守を求める「ゼロトレランス(非寛容)」に傾きやすい。しかし、遅刻や欠席の多い生徒を「困った子」だと決めつけるのではなく、「困りごとを抱えている子」と捉えなければ、ヤングケアラーが出すSOSが見逃されてしまう。子ども観を「個人モデル」から「社会モデル」へと転換させることは、ヤングケアラーも含む、様々な困難(貧困、いじめ、国籍・民族、障がい、性差・性自認など)を抱える子どもたちが排除されないインクルーシブな学校とするために欠かせない。
もちろん、多忙な教員の負担を増やすだけでは解決しない。学校の役割はまず「気づき」、支援に「つなぐ」こと、すなわち、校内で完結しない、地域連携型の生徒支援である。藤沢市の場合、財源をかき集めて、担任や授業の負担を減らした「児童支援担当教諭」を全小学校に配置した。また、調査結果を現場にフィードバックし、教職員の研修に活かすとともに、民生委員などへの調査、地域連携を支える市職員などの研修も重要である。
介護やケアは中高年以降の課題と受け止められやすいが、少子化や晩婚化の進展、共働き世帯の浸透によって、子どもが年齢不相応のケアに巻き込まれている。専業主婦の存在を前提とする介護保険制度は実態にそぐわない。しかも、これまでの介護政策は要介護者に限定した支援にとどまり、介護者にとっての介護以外に必要な多角的かつ包括的な支援は看過されてきた。その意味で、ヤングケアラー問題は「ヤング」だけの問題ではない。ようやく厚労省も「家族介護者支援マニュアル」を作成して、こうしたケアラーの問題に取り組み始めたところである。(眞)
【イベント詳細】2021連続講座「進めたい「いま」、弾力ある社会へ」
講師 |
2022年1月15日(土)13:30〜15:30 「2021連続講座「ヤングケアラー』を知っていますか? -藤沢市調査から見えてきた課題と支援の今後について-」講師:竹村雅夫さん(NPO法人ポトピ副理事長・藤沢市議会議員) |
形式 |
オンライン(zoomウェビナー) |
参加費 |
1,100円(税込) |
定員 | 50名(要予約) |
【メッセージ】「ヤングケアラー」をご存じでしょうか。大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子どものことです。2016年に藤沢市の小・中・特別支援学校の教員を対象に実施された調査では、教員の約半数が現在・または過去に「ヤングケアラーに出会ったことがある」と回答しました。またケアの結果、遅刻や欠席、学業の遅れ、友達付き合いや好きな部活ができないなどの影響が出ていることもわかりました。ヤングケアラーをどのように支援したら良いのでしょうか。藤沢市の支援の取り組みを通して、これからのヤングケアラー支援について一緒に考えてみたいと思います。
【プロフィール】元藤沢市立中学校教員。精神障害者を支援するNPO法人「ポトピの会」副理事長。2007年より藤沢市議会議員。2016年に藤沢市の教員を対象に実施された「ヤングケアラー実態調査」の企画にたずさわる。