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2022連続講座「タイフーンショット計画 ~台風を脅威から恵に~」講師:筆保(ふでやす)弘徳さん(横浜国立大学台風科学技術研究センター長)

 台風による人的被害(死者・不明人数)は、5,000人を越えた伊勢湾台風(1959年)の後、急減した。しかし、保険金支払額として表される経済的被害は、近年の台風の激甚化に伴って急増している。すでに1960年代からアメリカによるハリケーン制御の試みはあったが、うまくいかないまま凍結された。日本では、伊勢湾台風の後、災害対策基本法(1961年)が制定され、そこには「台風に対する人為的調節」が挙げられていた。とはいえ、国としての本格的な施策は、昨年(2021年)の台風科学技術研究センター設置であり、ようやく産官学の協働による技術開発が動き始めた。その直接の政治的なきっかけは、2018年の台風21号、19年の台風19号による、首都圏を含む広範囲に及ぶ被害だったといえる。

 台風制御が難しかったのは、台風のメカニズムがわからず、また、効果判定が不可能だったからだ。しかし、現在では、台風メカニズムの解明が進み、スーパーコンピュータによるシミュレーション性能が上がったため、半世紀前から検討されてきたテーマに改めて取り組めるようになった。

 台風制御の方法には3案ある。

① 台風の壁雲の外側に雲を作らせるための種まきをして、吹き込みの風による水蒸気の流入を抑える(=台風という車へのガソリン補充を遮断する)。② 台風にエネルギー供給する「暖かい海」を「冷たい海」にするため、海水をかき混ぜる(=台風という車への給油を減らす)。

③ 台風の眼に氷を散布する(=台風という車のエンジンを冷ます)。

 「タイフーンショット計画」は、台風を単に「脅威」として捉えるのではなく、いかに人為的に制御できるのかという挑戦であり、従来型の防災対策を強化しても対応しきれない激甚化する台風の被害を緩和することが目的である。上記の方法③のシミュレーションによれば、僅かな気圧や風速の低下であっても、建物などへの被害をかなり減らすことができる。のみならず、エネルギーの塊でもある台風を発電に利用できないかという目標まで見据えている。技術的な課題は山積みだが、持続可能な脱炭素社会の実現に貢献し、技術大国日本の復活にも繋がる道である。台風制御の開発の必要性について、より多くの国民が賛成して、その後押しが得られるような働きかけが大切になる。(眞)



【イベント詳細】2022連続講座「“政治”を揺り動かす」第4回

講師

2022年9月10日(土)13:30〜15:30

「タイフーンショット計画~台風を脅威から恵に~」講師:筆保弘徳さん(横浜国立大学台風科学技術研究センター センター長・教育学部教授)

形式

オンライン(zoomウェビナー)

参加費

1,100円(税込)

定員 50名(要予約)

【講師メッセージ】近年、大型の台風が襲来し、日本各地に甚大な被害をもたらすようになった。温暖化が進めば、台風はますます脅威の存在となり被害も激甚化する。そこで、従来の台風研究から大きく舵をきり、タイフーンショットプロジェクトを計画する。タイフーンショットプロジェクトでは、人為的に台風を制御する技術開発や、台風エネルギーの利用を目指す。さらに、2021年10月に開所した台風科学技術研究センターについても紹介する。

【プロフィール】京都大学理学研究科を修了後、防災科学技術研究所、海洋研究開発機構、ハワイ大学を経て、2010年に横浜国立大学の現職に着任。2021年10月1日から先端科学高等研究院台風科学技術研究センターのセンター長に就任。気象予報士。