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2019連続講座② 公共事業はどうなるか 講師:五十嵐敬喜さん(法政大学名誉教授)

講師の五十嵐敬喜さんは弁護士で、1995年から法政大学法学部教授。都市政策・公共事業論・立法学が専門。2011年内閣官房参与、東日本大震災復興会議委員を務めた。2014年法政大学名誉教授。「東北震災復興について」「将来人口と公共事業」「国土強靭化」「インフラ(老朽化)の問題」のテーマで語り、最後に自身の「現代総有論」を紹介した。

 

内閣官房参与として国全体をどうしたらいいか考えたとき、3つの問題があった。国の借金と放射能、原発問題、人口問題である。東北大震災は日本最大級の津波に原発事故が重なって、史上最大級の災害となった。

 

国力には人口が最も直接的に反映すると言われている。1945年の人口は7,199万人。その後2000年までに5000万人増加した。これは世界一のスピードであり、高度経済成長と表面的な豊かさの時代であった。人口は2004年12月をピークに下がり始め、人口構成の高齢化率では2004年19.6%で、2030年には31.8%になるという予測もある。しかしこの現象は全国的なものではなく、東京とその他の地域では様相が異なるという地域格差があり、地方では2040年には自治体の半分が消滅するとも言われている。人口が減る、高齢者が増える、人が住めない・住まない地域と住む地域が極端になってくるという事態ときちんと向き合おうとしたシンクタンクの一員になったときに、東北大震災が起きた。結局何も議論できないままになった。

 

当時すでに東北では人口減、高齢化が進んでおり、被災地の復興だけでなく少子高齢化のモデル社会を作り、復興のプロセスと結果を全国に波及させようと、膨大な費用をかけた。復興庁という新しい組織が2011年3月からの10年時限立法でできた。復興計画の策定と予算全体のコントロールを行い、独自の予算を持ち、かつ各省庁に勧告権を持つという、総理に次ぐ第2位の官庁である。最大のお金と組織と規律と人材とを総動員して作った町は、その後どうなったか。大きな道路、巨大な防潮堤、あらゆる施設がある一方で、原発事故による避難、汚染土除去、原子炉の解体等々の問題は未解決だ。原発問題には打つ手はない、人類の持っている技術では処理できないと思っている。結果として「金ピカの町に人がいない」。東北大震災後の町づくりは何の教訓ももたらさなかった。

 

人口の伸びとともに、1950~70年代に公共事業で様々なインフラの整備が行なわれた。道路、電気、ガス、橋、トンネル等々。コンクリートの寿命は50年と言われ、すでに老朽化が始まっており、目に見えるものとしてはトンネルと橋だ。最近の新聞報道によると、危険なもののうちの36%が放置されたままだという。1つには地元のことは国は分からず、地元はそれに慣れてしまって麻痺し、危険度を感じないこと。2つには技術者がいないことが原因だ。

 

インフラ再生には450兆円、毎年9兆円が必要である。中でもダムはいずれ巨大産業廃棄物になる。基本的には省インフラだが、維持するものと見捨てるものの選択の基準をどうするか。必要なところは儲からなくても国民の税金でやらなくてはならない。それが公共事業である。

 

1つの方法論として「現代総有論」を考えており、人々が皆ばらばらになっていることを「個化」と言い、それを繋ぐことを「総有」と表現した。様々な政策があり得ると思うが、夫婦、親子、地域、自治体の間で、団結と連帯をきちんと戻す。それを現代総有思想と唱えている。

 

参加者からは過疎の実態や新たなダムの建設問題、ゴミ処理場建設に関わる環境アセスメントの問題などが次々と出され、活発な話し合いの場ともなった。(