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ジェンダー平等サロン①「議会に女性を増やすために~市議6期の経験から~」矢澤江美子さん(埼玉県八潮市議)

 矢澤江美子さんは、埼玉県八潮市議会で6期目をつとめる無所属の市民派議員。専業主婦として4人の子供を育てながら夫の転勤にあわせ高松、大阪と転居した後に、つくばエクスプレスの敷設で市街地開発途上の埼玉県八潮市に戻る。当時、八潮市議会に女性は共産党の市議がひとり、市議の多くが不動産や建設関係者。「『男女共同参画』や『男女平等』という言葉を聞いただけでアレルギーを示す男性議員が少なくない」保守的議会が、2019年3月に全会一致で採択した八潮市議会基本条例に全国初の「多様性の尊重」条項を組み入れることに成功。

 

 閉鎖的土地柄で地縁をまったく持たない新住民、しかも専業主婦だった矢澤さんは、22年前「何とか女性議員をふやそう」と勉強会をたちあげ、仲間から市議候補に擁立される。夫や義母の反対に対し、子供たちの「お母さんみたいにはっきりものを言う人がいたほうがいい」という言葉や「家事全般は引き受ける」という実母の応援を受け、「自分の人生は自分で決める」と立候補を決意。PTAやボランティア活動の仲間の応援を基軸に、地域で最も信頼されている人を見出し、積極的支持を得る手法、選挙区の全区域から隈なく賛同者を得る方法など、いずれも政策対話で草の根の幅広い支持を得て「八潮市の全国区」当選を続ける。

 

 「議会ってひどい処」「市民の常識と議会の常識が全くずれている」と、地方、国を問わず日本政治の核心を鋭く突く矢澤さん。その事例は枚挙にいとまがない。例えば、選挙民に配布される「議会報告書」の一般質問の項に質問者の名前の記載が無い。「自分の質問に責任を持つべきで、名前を入れるべき」と言うと、その返答は、「名前を入れると質問者が増えるから。」また、議会のたびに「通信」を発行しているが、ボランティアによる配布は3000部が限度。そこで、印刷屋に頼んで新聞の折り込みに入れてもらうと、「なぜ、自分の支持者のところに入れるのだ」と猛反発を受ける。こうした議会で起きていることは、すべて「通信」に書き、議会の内情を知ってもらうようにしていると、矢澤さんは言う。これは、まさに市川房枝が理想選挙で当選した議員の第一の義務に挙げていることに他ならない。

 

 6期に及ぶ議員活動を通して様々な改革を実行してきた矢澤さんは、常日頃、地域の壁、家族の壁に加えて介護・育児の壁が、女性が議員活動をする上で、特に障害になっていると感じていた。また昨年5月に制定された候補者男女均等法の成立に長年関わってきたこともあり、八潮市の基本条例に法の趣旨を何とか反映させたいと考えた。基本条例は自主条例なので、自由に条項を入れられる。しかし「男女共同参画」という言葉を使うと、つぶされるのは目に見えていた。そこで「多様性の尊重」という昨今の「大きな流れ」に着目し、「議会は、議会の機能強化のため、議会活動と、育児・介護が両立できる環境整備等などに努め、多様な立場の市民の声が反映されるようにしなければならない」という条項を提案した。「男女共同参画には反対でも『多様性』には反対できないだろうと考えたから」である。公明党の「本則でなく附則に」との意見も出て危ぶまれた一面もあったが、あえて審議中は「刺激しないよう沈黙」を維持し、共産党の応援もあって難を逃れた。いったん決まった条例は容易に変えられないところが重要と矢澤さんは強調。今後、この条項をもとに女性議員の増大を図りたいと、抱負を語った。(進)